そしてとうとう小水ガイラが登場する。「ガイラ航空」と看板が出ているのは、ただ単にガイラさんの店だ‥‥。主要キャストのうち、小水ガイラと岩淵教授についてはまだ何も語られていない。あまりにも大きすぎる存在なので、もうすぐインタビューの形で紹介する予定だ。
とにかくハッキリしているのは、ガイラ飛行隊はソドムの催眠下で行動しているのではないということだ。彼らはまったく独立した存在であり、それ故にクライマックスでああなるのだ。
町工場では何かが組み立てられている‥‥。これは『鉄人28号』
の「VL2号」の巻以来、私が好きな設定だ。VL2号の工場には署長が工員に化けて忍び込み、部品を一つチョロまかしたおかげで、ロボットは鉄人に破れた。だが『ソドム』にはそんなプロットを仕込む余裕はない。工員たちは何だかわけもわからず、ひたすらに組み立て続ける。何しろこの不景気に大口の注文だ‥‥。そうつぶやく工員は宮武嘉昭。うんうんとうなずく同僚は土屋直人。素晴らしいツー・ショットが実現した。宮武さんは本当は『ソドム』の撮影中、篠崎誠とともにドキュメンタリーの撮影でイランにいるはずだったのだ。だが電話をかけたら何故か日本にいて、もともとアテ書きだったのだけど、本当に宮武さんに出て貰えることになった。
宮武さんは新谷尚之が師と仰ぐ撮影のスペシャリストであり、美学校の技術指導の要とも言える存在だ。記録映画出身なのだが、もともとメカニックから発想するスタンスから特撮技術にも詳しく、ふと気づくと教え子のためにUボートのミニチュアを作ったりしている。『ソドム』のメイキングもふと気づくと宮武さんが撮り、いつの間にか編集までしていた‥‥。畏れ多いというか、あまりにも行動が謎の人だ‥‥。実は名言多数、その言と技に触れた者は必ず尊敬するのだけど、本人は恥ずかしがって言わない。何で言わないのだ‥‥。
土屋直人はラクエル・ウェルチ
の『女ガンマン・皆殺しのメロディ』
みたいな映画が撮りたい人。『アメリカ刑事』では最も悲惨な絶叫を上げて死んでいった。美学校スター・システムのもはや重鎮であろう。『女ガンマン』は最近ついにDVD化された。土屋さん、本当によかったですね。
「3月10日を警戒せよ」とソドムは予告する。『怪人マブゼの挑戦』では、マブゼは「13日の金曜日を警戒せよ」と予告し、フェイントをかけて、12日の木曜日に事を起こした。今回はそういうことはしない。3月10日であることが重要なのだから。
いきなり襲ってくる出前持ちは美術応援の矢野由紀だ。感情を殺したような瞳が魅力的だ。だが夢見るように見える時もある‥‥。はじめはショットガンという大げさな設定ではなかったが、安里がショットガンと言ったのでショットガンになった。遊佐君はあっさり用意してくれた。「ショットガンをぶっ放したい気分なんです」と矢野は言っていた。矢野の攻撃に巻き込まれる、やや真田広之似の気の毒な通行人は、助監督の橋詰和幸である。彼は止せばいいのに、例の蛇を家に持ち帰り飼おうとした。そしてやはり蛇は逃げた。今も家の中の何処かにいるという‥‥。
そしてS4号、大九の幽霊に導かれて、事態はいよいよ大詰めを迎える。幽霊と化した大九の眼球はあまりにも巨大だ。というのも、何故かラングの映画では幽霊が決まってああいう目玉で登場するからだ。おそらくは腐乱し膨張した死体のイメージなのだ。しかしいくら何でもでかすぎる‥‥。本当は新谷は大九の顔に合わせて、大きさを調節できるようにしていたのだ。しかし現場はとてもそれをやってる余裕がなく、大九の顔にいきなり巨大な目玉が貼り付けられた‥‥。通り過ぎる車がみな、スピードを落とし、立ちすくむ大九の姿を眺めていった。大九がヌーッと電話ボックスを指さす効果音はまたもや『悪魔くん』である‥‥。
炎に向かって走り寄るテレーズの表情は素晴らしい。大九の恨みの炎が電話ボックスのガラスに浮かび上がらせた、その文字は‥‥。
とりあえずここまでとしよう。ここからのクライマックスにも様々な背景はあるが、それはまた別に語る機会があるだろう。とにかく異常に思えるのは、この映画は3回くらいクライマックスが来ることだ‥‥。しかし、中国人の感覚で考えたら、それでちょうどいいのかも知れない‥‥。▲