17.ベリヤの引き出し_ソドムの市早わかり2_映画: 高橋洋の『ソドムの市』 | CineBunch

17.ベリヤの引き出し

 
  『死刑執行人もまた死す』が本当に出てくるのはここだ。見て貰えば判る‥‥。私はどうしても警察を残虐な容赦ない集団として描いてしまう。別に私は権力を憎んでいるわけではないのだ。ただ権力は社会秩序の最も底部とつながってるが故に、常にその恐ろしさの本質を露わにしていなければならない。そうでなければウソだ。はじめはニードルガンの犠牲者たちをテレーズが片っ端から連行し、処刑する展開を考えていたのだが、これは明らかに『黒い警察』の影響だ。しかしあまりにも大変なので止めた。そこでこの取調室のおぞましく偽善的なやり取りから始まる場面に集約させたのだ。


 「ベリヤの引き出し」は、実際にソ連の秘密警察で行われていたのだ。私はその話を知ってから、やってみたくてたまらなくなった。ベリヤとはスターリン時代の秘密警察の長官だ。ゲルマンの『フルスタリョフ、車を!』で、その台詞を叫んだのがベリヤであることはロシア人ならみんな、知っている。あれは権力の交替が起こった瞬間に発せられた台詞だったのであり(フルスタリョフとはスターリンの運転手だ)、そして皮肉にもベリヤはスターリンの死後、最も民主的な政策を打ち出そうとしたのだ。粛正されてしまうのだが。何故最も恐れられたベリヤが民主化の道を選ぼうとしたのか? それはつまり当時のソ連では秘密警察にこそ最も正確な情報が集まっていたからだ。やっぱり警察という組織は恐ろしい‥‥。


 ダークで卑劣な上司を演じてくれたのは伊藤猛さんだ。サイレント的・アフレコ的な『ソドム』の世界で、唯一同録的なアドリブの場面を(でもアフレコ)見事にこなしてくれた。テレーズの残虐さに思わず顔をそむけるリアクションは絶妙だった。

16.2001年宇宙の旅   18.ガイラ飛行隊