もう新谷尚之と小寺学が登場する以上、任せればいいのだった。いや、もっと任せるべきだった‥‥。私が最初にイメージしたのは、ブニュエル
の『黄金時代
』に出てくるような凶暴なハンターだったが、新谷がやっぱり石を投げたいと原始的な方面に話を持っていきはじめ、舞台もはじめは森だったが、彼らが『酒乱刑事』を撮った自主映画の聖地、多摩川河川敷となった。そういえば金井勝が『王国』を撮ったのもこの辺ではないだろうか‥‥。
で、二人は異様な風体で河原に現れた。「一応、コンセプトは『2001年宇宙の旅
』の猿ということで」と小寺が言った。何のことかまるで判らなかったが、それでやって貰った。『ソドム』で最も意味不明なシーンが出来上がったが、誰も切ろうとは言わなかった。みんなこのシーンを愛しているようだった。森で撮っていたらもっと陰鬱な場面になっていたかも知れない。多摩川の河原の視界がバーッと開ける解放感は(まさに聖地という感じだ)、この映画の不思議な解放感とつながっているように思える。
それにしてもこの二人は何者だったのか‥‥。私は編集中、あるいはソドムが引き起こした経済崩壊によって野生化した人々かと考えた。だが、石谷と私もそれはしょせん理屈に過ぎないと感じた。この二人を理屈づけても仕方がない。たぶん、彼らは歴史がどのように動こうがまったく変わることなくはじめから居続けた人々なのだ‥‥。
なお、三留まゆみは『2001年宇宙の旅
』ではなく、『ノストラダムスの大予言』と思ったらしい。▲
小寺学の最も怖い話
この映画と何の関係もないのだが、小寺学が生涯で最も怖かった話があるというのだ。それは『ミステリーゾーン
』の第72話『墓』というリー・マーヴィンが出てくるエピソードだという。これは聞き捨てならないので、ぜひ話して欲しいと所望すると、小寺はゆったりと語り始めた。ある西部の町にリー・マーヴィンがやってくる。その町の酒場にはリー・マーヴィンがいた‥‥。おお、凄い、さすがは『ミステリー・ゾーン』だと、この判りにくい二人のリー・マーヴィンの関係を懸命に理解しながら聞いていると、途中から片方がリー・ヴァン・クリフと呼ばれた。どうやら最初からリー・ヴァン・クリフだったらしい。で、とにかく殺された無法者の墓に真夜中に独りで行ける度胸があるかどうか、賭をすることになったようなのだ。すると酒場にいる狂女が「ほほほ、あんたがたはみんな死ぬのよ! 死ぬのよ!」と不吉な予言をする。この女は殺された無法者の愛人だったらしい。賭はなされ、墓場に行く者が決まった。それがリー・マーヴィンなのかリー・ヴァン・クリフなのかもはや判らない。「ほほほ、あんたがたはみんな死ぬのよ!」小寺の話は何度も狂女の物まねに戻り、なかなか先に進まない。「それでいよいよ墓場に着いてですね、すると狂女がほほほ、あんたがたはみんな‥‥!」「だからどうなるわけ?」「そしてついに‥‥、ああッダメだ! この怖さは見て貰わないと判らない!」「あの、それ録画してるんだよね?」小寺学はCSで『ミステリー・ゾーン』をせっせと録画してるのだ。「いや、これだけ録画し忘れたんです」。誰かこの男をどうにかして貰いたい‥‥。いや、というよりは、この話を知ってる人がいたら誰か教えて欲しい‥‥。▲