「造顔術」とは、『神州纐纈城』や『幽霊塔』に登場する、要するに整形手術のことなんだが、私はこの古風な言い方が好きだ。本当に人間の顔がまるで別人に作りかえられたりするのはやはり「造顔術」だろう。字幕が浮かび上がる、ドクトル松村をド正面から捉えたショットはこの映画のサイレント的意志を表明している。▲
『ドラゴンの1000日』
しかし私が「造顔術」の名の下に本当にやりたかったのは、『アウターリミッツ
』初期のエピソード『もう一人の自分』なのだ。原題を「ドラゴンの1000日」というこの物語は、東洋の独裁国家が皮膚を柔らかくする薬を開発し、アメリカ大統領とそっくりの人物を作り上げて、まんまと本物を殺してすり替わるという凄まじい内容だった。偽物の大統領はこの独裁者を国賓待遇でアメリカに招き、ホワイトハウスの執務室で出迎えて、側近たちを下がらせて二人きりになったトタン、「ヤ・キ・マー」(か、どうかよく憶えてないが)と東洋語らしき言葉を口にしながら、深々とお辞儀をする‥‥。何というか、その瞬間、「勝った」と思った。よく判らない感情だが、素朴にそう言うしかない。断っておくが私は決して「反米愛国」といった立場にいる者ではない。だが、この痛快さは何だろうか。大統領を演じたのは、後に『ローズマリーの赤ちゃん
』で、サタニストの首領役をやるシドニー・ブラックマー
だ。ふっと本性を現すとき、眼が細めになって、チャイニーズ・アイに変貌してゆく芝居が実に怖い。むろんこんな陰謀が長続きするはずもなく、どこから見ても大統領のこの男は無惨な最期を遂げるのだが、しかし1000日というのは、世界情勢がひっくり返るのに十分な長さだ‥‥。
もっとも、このサミュエル・フラー
が書いたようなプロット(いや、実際は別の人だが)をそのまま『ソドム』に取り込めるはずはなく、取り入れたのは、無理やり顔面を変形させるあの洗面器のようなヒドイ道具だけだった。だが、それでも顔を変えるというのは、それだけでワクワクするようなことだ。線路に置き石する場面で、浦井崇があわや怪我で降板かと思われた時、私の頭をよぎったのがこの「造顔術」だった。これさえあれば何とでもなると‥‥。
ここはソドム一味唯一のブルジョワ、菅沼俊輔の最大の見せ場である。すぐに顔が変わってしまうのが何とも気の毒な気がしたが、顔型が迫ってくるその恐怖の演技は、『血塗られた墓標』のバーバラ・スティールの感じでやって貰った。そうだ、この場面にはもう一つの原典があって、それは井手豊の『ナルキッソスの果実』のいうのだが、渋谷教授が突如、菅沼に変貌してしまうというかなり残酷な映画だった。鏡を見て、喜びはしゃぐ菅沼の演技はすぐれてサイレント映画的だ。あのショットにはみんなかなり驚いた。顔型を押さえる渋谷教授の表情に、何か鬼気迫るものが宿ったのはその辺の事情もあるのだろうか‥‥。
蛇吉の鼻のテーピングは言うまでもなくサソリの印だ。▲