お前はサソリだ_ソドムの市早わかり1_映画: 高橋洋の『ソドムの市』 | CineBunch


 
 
  村上賢司の『呪霊2』と『呪霊 THE MOVIE』を見て、園部貴一という役者の顔が忘れられなくなった。で、その『呪霊 THE MOVIE』の公開イベントではじめて本人に会ったトタン、何で忘れない顔であったか気づいたのだ。「君は『ダーティハリー』のサソリだ」と私はいきなり言った。『E.T.』に感動したという世代に属する園部さんにとって、『ダーティハリー』などはおよそ視野に入ってない過去の映画であったわけだが、私はどうかぜひ見てくれと食い下がった。浦井崇もそうであったのだが、「誰かに似ている」というのは重要だ。西山洋市の説によれば、「誰かに似ている」というのはブレイク寸前の俳優によく起こる現象らしい。かつて松田優作には原田芳雄をはじめ様々な俳優に似て見える時期があったらしい。それがある瞬間から、彼自身でしかあり得ない存在へと飛躍すると。本当だろうか。あくまで西山洋市の発言であって、私は責任をとる気はまるでないが。


 しかし、「誰かに似ている」というのは重要なのだ。そこからキャラクターは動き出すのだから。言われるがままに、アンディ・ロビンソン一世一代の当たり役を見て来た園部さんはしかしもう一つ釈然としない風であった。「あのう、つまり僕って気持ち悪いってことですかねえ」。彼はトコトン、ナイーブな青年なのであった。だが「気持ち悪い」という言い方は何かサソリの本質を捉えていないように思えた。私の直感的な言い方はこうであった。「つまり権力が好きってことなんだよ」。この言い方は「気持ち悪い」以上に青年の心を傷つけたようであった。くれぐれも園部さんの人格を攻撃しているのではなく、キャラクターの話をしているのだが。 
「権力が好き」ということは紛れもなく犯罪者の重要な資質なのだ。そして蛇吉は(この名前は園部さんを見たトタン、何故かあまりにも自然に浮かんだ名前だった)、テレーズの陰に隠れて、権力を振るう、コミカルだけどおぞましい人間なのである。私は警察と犯罪者を本質的に区別し得ない存在と思っている。それは別に反権力のスタンスから言ってるのではなく、『狩人の夜』のロバート・ミッチャムとリリアン・ギッシュがそれぞれに心の中の鬼を見つめている、いわば鬼同士の対決であるごとく、神話的な想像力においては同類同士の対決というモティーフこそが重要であるのだ。 


 てな、ことを先日のトーク・イベントで話していたら、司会役の中原昌也さんが「でも体操のお兄さんのような健全な人にも見えますと」とフォローしてくれた。なるほどなあ、そういう見方もあるのかとその時は思ったが、後でハタと気づいてゾッとした。それこそ、サソリがスクールバスの中でやったことでないか‥‥。 


 蛇吉の衣装は、衣装半田さんの奮闘でサソリそっくりにコーディネートされた。持ってる拳銃もワルサーである。もっとも銃器に興味のない私はサソリの拳銃がワルサーであることすら知らず、銃器担当遊佐君のこだわりでそうなったのだが。ちなみにテレーズが手にするモーゼル・マシン・ピストルはさすがに私も『殺しの烙印』の宍戸錠の拳銃だぐらいは知っていたが、はじめは全然その気はなく、これまた遊佐君の異常なこだわりでそうなったのであった。『ソドム』の現場は各パートの何もそこまでという暴走を追い風に膨らんでいったのであった。



蛇吉

園部貴一(そのべ・きいち)



3月16日生まれ。日本デザイン専門学校イラストレーション科卒業後、デザイン会社を経て、役者として活動を始める。97年E.G.WORLD第2回公演「地下水道」で初舞台を踏み、98年演劇実験室・紅王国第1回公演等多数出演。映画『ざわざわ下北沢』(00年・市川準監督)、『壁穴』(01年・永田琴恵監督)、Vシネマ「呪霊2」(00年・村上賢司監督)他、出演作が続いており、今後の活躍が期待される。